芋虫 朗読:楠木華子 再生時間:1時間29秒 無料再生時間: 提供:パンローリング |
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内容紹介
時子は母屋の主である少将からの誉め言葉を複雑な思いで噛みしめていた。「須永中尉の忠烈は、言うまでもなく陸軍の誇りだが、お前さんの貞節は、あの廃人を三年の間嫌な顔一つせずに、自分の欲を捨てて親切に世話をしている。なかなか出来ないことだ――」
時子の夫、須永少尉は戦争で左右の手足を失い、目以外は正常に働くこともなくなった。伝達する手段といえば、口に鉛筆をくわえて書く、目や表情を使うなど以外に持たない肉塊に変わり果ててしまい、まるで大きな芋虫のようであった。
最初の間は少将の誉め言葉を誇らしくも思っていたのだが、この頃ではそれを以前のように受け入れかねた。いつしか時子の内面は、貞淑な妻では無く、情欲にかられる獣のように変わっていたことを自覚していたからである……