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小さき者へ 再生時間:41分23秒 無料再生時間: 提供:パンローリング |
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内容紹介
学問を修め、品性を磨いて自身の人格を高めていくという教育方針の中で育った有島武郎は、西洋風の教育を受け、ミッションスクールで西洋思想を身につけました。学習院を経て進学した札幌農学校において、友人に感化されキリスト教に入信し、自身の内側を省みる傾向を深めました。しかし、その後アメリカに渡った際に戦争に遭遇したことでキリスト教信仰に疑念を抱くようになりました。そして棄教したのち、文学に自己表現の可能性を見出すようになり、志賀直哉らと共に雑誌「白樺」の創刊に参加ました。
彼の小説の作風は、人種や国籍を問わず人間性を重んじる人道主義的な当時の文学界で注目を集めました。小説や戯曲、評論だけでなく童話作品も発表しており、幼少時代の体験をもとに子どもの内面に迫った『一房の葡萄』は、雑誌「赤い鳥」に掲載されました。
またこの『一房の葡萄』は、自ら装幀、挿画を手掛けており、彼の3人の子どもに向けて献辞が捧げられています。
<作品冒頭>
お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映るか、それは想像も出来ない事だ。恐らく私が今ここで、過ぎ去ろうとする時代を嗤い憐れんでいるように、お前たちも私の古臭い心持を嗤い憐れむのかも知れない。私はお前たちの為めにそうあらんことを祈っている。お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。然しながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、或はいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ。お前たちがこの書き物を読んで、私の思想の未熟で頑固なのを嗤う間にも、私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにおかないと私は思っている。だからこの書き物を私はお前たちにあてて書く……