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山椒大夫

山椒大夫

著者:森鴎外

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内容紹介

森鴎外(本名林太郎)は、官人に対する医療や医薬全般、医師の養成などを司る典医の家に生まれました。幼い頃から「論語」や「孟子」などの漢学書、オランダ語を学び、実年齢で習得するよりも早い段階ですでに高い学力を持っていたことで、周囲から将来を期待されて育ちました。
のちにドイツ語も習得し、東京大学医学部を卒業しました。物書きになることを夢見ながら父の経営する病院を手伝い、陸軍省の軍医となりました。ドイツ留学にて教養や見識を深め、帰国後、医学・文学両面においての革新のために活発に活動していきました。

<作品冒頭>
越後の春日を経て今津へ出る道を、珍らしい旅人の一群れが歩いている。母は三十歳を踰えたばかりの女で、二人の子供を連れている。姉は十四、弟は十二である。それに四十ぐらいの女中が一人ついて、くたびれた同胞二人を、「もうじきにお宿にお着きなさいます」と言って励まして歩かせようとする。二人の中で、姉娘は足を引きずるようにして歩いているが、それでも気が勝っていて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折り折り思い出したように弾力のある歩きつきをして見せる。近い道を物詣りにでも歩くのなら、ふさわしくも見えそうな一群れであるが、笠やら杖やらかいがいしい出立ちをしているのが、誰の目にも珍らしく、また気の毒に感ぜられるのである。
道は百姓家の断えたり続いたりする間を通っている。砂や小石は多いが、秋日和によく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのように踝を埋めて人を悩ますことはない。
藁葺きの家が何軒も立ち並んだ一構えが柞の林に囲まれて、それに夕日がかっとさしているところに通りかかった……


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・録音音声の中には、今日においては不適切と思われる表現がありますが、音源または原文の歴史的価値を尊重し、改変を加えずそのままとしました。
・当時の録音状況や、原盤の保管状態の不備などにより、一部にお聴き苦しい箇所があることをご了承下さい。