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南島譚
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内容紹介
昔、此の島に一人の極めて哀れな男がいた。 年齢を数えるという不自然な習慣が此の辺には無いので、幾歳ということはハッキリ言えないが、余り若くないことだけは確かであった。髪の毛が余り縮れてもおらず、鼻の頭がすっかり潰れてもおらぬので、此の男の醜貌は衆人の顰笑の的となっていた。おまけに脣が薄く、顔色にも見事な黒檀の様な艶が無いことは、此の男の醜さを一層甚だしいものにしていた。 此の男は、恐らく、島一番の貧乏人であったろう。ウドウドと称する勾玉の様なものがパラオ地方の貨幣であり、宝であるが、勿論、此の男はウドウドなど一つも持ってはいない。ウドウドも持っていない位だから、之によって始めて購うことの出来る妻をもてる訳がない。 たった独りで、島の第一長老の家の物置小舎の片隅に住み、最も卑しい召使として仕えている。家中のあらゆる卑しい勤めが、此の男一人の上に負わされる。怠け者の揃った此の島の中で、此の男一人は怠ける暇が無い。 朝はマンゴーの繁みに囀る朝鳥よりも早く起きて漁に出掛ける。手槍で大蛸を突き損って胸や腹に吸い付かれ、身体中腫れ上ることもある。巨魚タマカイに追われて生命からがら独木舟に逃げ上ることもある。盥ほどもある車渠貝に足を挟まれ損ったこともある……